

Timegated® Raman分光法によるオリーブオイル純度の定量
食品の偽装や粗悪化は、世界中のほぼすべての食品に関わる大きな課題です。
品質の劣る食品を意図的または非意図的に混入したり、一部の原料を別の原料に置き換えたりする行為は、広い意味で食品偽装(adulteration)に該当します。食品偽装は重大な経済的損失をもたらすだけでなく、消費者の健康に深刻な影響を及ぼす可能性もあります。
その代表例の一つが、オリーブオイルの偽装です。
オリーブオイルは、安価な植物油や種子油、低品質のオイル、精製油などで希釈されることがあります。バージンオリーブオイルが真正なものであるか、また十分な純度を有しているかは、消費者にとって重要であり、偽装によって健康上のリスクが生じる可能性もあります。
バージンオリーブオイルは地中海食を代表する主要食材の一つであり、その健康効果を背景として、世界市場は拡大を続けています。その一方で、バージンオリーブオイルの偽装も増加しています。欧州刑事警察機構(Europol)は、2019年に15万リットルの偽エキストラバージンオリーブオイルを押収したと報告しています(詳細はこちら)。この事例からも、オリーブオイル偽装の規模の大きさがうかがえます。
食品偽装の検出には、質量分析法、ガスクロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー、核磁気共鳴(NMR)分光法など、さまざまな分析技術が用いられています。これらの方法は検出限界が低く、非常に優れた分析性能を有していますが、分析に時間とコストがかかり、専門的な実験設備と訓練を受けた技術者を必要とします。
そのため、偽装食品を高感度かつ迅速に検出でき、持ち運び可能な分析技術の開発が依然として求められています。
本記事では、Time-gated Raman分光法を使用して、オリーブオイルの純度を定量する方法をご紹介します。
エキストラバージンオリーブオイルに、ヒマワリ油または菜種油を10%、20%、30%、40%、50%の割合で混合した二成分系試料を測定し、検量モデルを作成しました。さらに、市販されている安価なオリーブオイルについても、その純度を評価しました。
材料および方法
試料
エキストラバージンオリーブオイルの体積濃度が50~100%となるように、より安価な食用油であるヒマワリ油または菜種油を混合しました。
これにより、ラマン測定用として12種類の二成分混合試料を調製しました。
データ取得および解析
試料の測定には、波長532 nmのパルスレーザーを搭載したTime-gated PicoRaman分光器を使用しました。
分光器には、スポット径85 µmのB&W Tek製BAC100-532Eマイクロプローブを接続。試料を光路長12 mmのガラス管に入れて測定しました。
取得したスペクトルはSHSGUIを使用して前処理し、その後、MATLABを用いて解析しました。
SHSGUIではベースライン補正と平滑化処理を行い、前処理後のデータを使用してMATLAB上でPLS回帰モデルを構築しました。
結果および考察
エキストラバージンオリーブオイル、菜種油およびヒマワリ油で確認された主なラマンピークと、それぞれに対応する振動モードは次のとおりです。
- 869 cm⁻¹:–(CH₂)n–に由来するC–C伸縮振動
- 972 cm⁻¹:trans RHC=CHRに由来するC=C変角振動
- 1079 cm⁻¹:–(CH₂)n–に由来するC–C伸縮振動
- 1155 cm⁻¹:カロテノイドに由来するC–C伸縮振動
- 1263 cm⁻¹:非共役cis結合(RHC=CHR)に由来する面内=C–H変角振動
- 1303 cm⁻¹:エチレン基(CH₂)に由来するC–H変角(ねじれ)振動
- 1441 cm⁻¹:メチレン基(CH₂)に由来するC–H変角(はさみ)振動
- 1525 cm⁻¹:カロテノイドに由来するC=C伸縮振動
- 1657 cm⁻¹:不飽和結合(cis RHC=CHR)に由来するC=C伸縮振動
- 1746 cm⁻¹:エステル(RC=OOR)に由来するC=O伸縮振動
混合油を含むオリーブオイルとエキストラバージンオリーブオイルとの主な違いは、後者において1155 cm⁻¹および1525 cm⁻¹の2つの振動モードが確認されたことです(図1、図2)。
これら2つの振動モードは、重要な抗酸化成分であるカロテノイドに由来します。カロテノイドはオリーブオイル特有の色をもたらすとともに、オリーブオイルが持つ健康上の利点にも関係しています。

図1:菜種油を異なる濃度で混合したオリーブオイル。
見やすくするため、各スペクトルをY軸方向にずらして表示しています。

図2:ヒマワリ油を異なる濃度で混合したオリーブオイルおよび市販の安価なオリーブオイル。
見やすくするため、各スペクトルをY軸方向にずらして表示しています。
モデルの構築には、10分割交差検証を用いたPLS解析を使用しました。
図3および図4に示すように、菜種油およびヒマワリ油のいずれを混合した場合も、実測値とモデルによる推定値は良好に一致しました。
菜種油を混合した場合の二乗平均平方根誤差は、キャリブレーションデータで0.957、バリデーションデータで1.11でした。一方、ヒマワリ油を混合した場合は、キャリブレーションデータで1.52、バリデーションデータで3.01でした。
このモデルを基に、地域のスーパーマーケットで販売されていた最も安価な製品の一つを、ブラインド試料として評価しました。
PLS回帰モデルによる解析の結果、この安価なオリーブオイルに含まれるオリーブオイルは約75%であり、ヒマワリ油が混合されていると推定されました(図4)。

図3:菜種油を混合したエキストラバージンオリーブオイルの実濃度と推定濃度。
実線は、実濃度と推定濃度が完全に一致する誤差ゼロの直線を示します。

図4:ヒマワリ油を混合したエキストラバージンオリーブオイルの実濃度と推定濃度。
実線は、実濃度と推定濃度が完全に一致する誤差ゼロの直線を示します。
結論
本パイロット試験により、Time-gated Raman技術が食品に混合された異種成分を検出し、その割合を定量するための有力な分析手法となり得ることが示されました。
上記原文:Quantifying the Purity of Olive Oil with Timegated® Raman Spectroscopy
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