卓上NMRのリアルタイム分析で微生物バイオ変換を理解する

Ectopseudomonas oleovorans の論文紹介 ―

Ectopseudomonas oleovorans(エクトシュードモナス・オレオボランス)

2026年に学術誌『Applied Microbiology and Biotechnology』に掲載された研究では、Ectopseudomonas oleovorans CECT 5344 R1DによるHMFの生物変換を、Magritek社の卓上NMRと循環フローシステムを統合しリアルタイムで追跡しています。本研究は、原料、生成物および一過性中間体の時間変化を連続的に観察することで、反応経路と適切な運転条件を明らかにした事例です。
原文は、こちらからどうぞ:https://link.springer.com/article/10.1007/s00253-026-13853-7


バイオマス由来化合物HMFの有効利用

5-ヒドロキシメチルフルフラール(HMF)は、植物由来の糖質を原料として製造できるバイオマス由来のプラットフォーム化合物として注目されています。
バイオベースポリマーや各種化学品の原料として期待される一方、反応性の高いアルデヒド基を持つため、微生物に毒性を示し、発酵や生物変換を阻害することがあります。研究では、E. oleovorans CECT 5344 R1Dを用いて、HMFを5-ヒドロキシメチル-2-フランカルボン酸(HMFCA)へ変換しました。HMFCAは、生分解性ポリエステルなどの合成原料となる有用化合物です。この菌株は、HMFを菌体増殖の炭素源としてほとんど利用せず、主にHMFCAへ変換して培養液中に蓄積します。そのため、HMFを目的物へ選択的に変換する「cell factory」としての可能性が示されています。

卓上NMR 80MHzを用いたリアルタイムモニタリング

研究では、80 MHzの卓上型¹H NMRに、培養液を循環させるクローズドループ型フローシステムを接続しました。培養液は約12 mL/minでNMR測定部へ循環され、測定時には流れを一時停止するstop-flow方式が用いられました。強い水信号を抑制するWET法を使用し、単回添加実験では40分間隔で16時間、fed-batch実験では最大125時間にわたってスペクトルを取得しています。この方法により、培養液をその都度採取して前処理することなく、HMF、HMFCAおよび反応中間体の変化を追跡できました。

一過性中間体BHMFの検出

10 mM HMFを用いた実験では、HMFは約13時間で完全に消費され、主にHMFCAへ変換されました。
その過程で、2,5-ビス(ヒドロキシメチル)フラン(BHMF)が一時的に生成することも確認されました。
BHMFはHMF消費後も残存し、その後、数日をかけてゆっくりとHMFCAへ酸化されました。この成分は、研究グループの過去のHPLC分析ではFDCAと暫定的に同定されていました。
しかし、NMRスペクトルを標準物質と比較し、生成から消失までの経時変化を観察したことで、BHMFであることが確認されました。
これは、リアルタイム分析が濃度変化を測るだけでなく、反応経路と中間体を正しく理解する手段になることを示しています。

物質収支から反応全体を確認

NMR信号の積分値から各成分濃度を求めた結果、HMFの消費速度は、HMFCAとBHMFの生成速度合計とほぼ一致しました。

主要なフラン系化合物について、NMRから求めた物質収支がほぼ一致したことになります。

高濃度HMFによる反応阻害

最も速い変換は、初期HMF濃度10 mMで確認されました。HMF濃度を高くすると反応速度は低下し、100 mMでは変換が大幅に遅くなりました。200~300 mMでは、3週間経過しても変換は確認されませんでした。
したがって、基質濃度を高くすれば、必ず生産性が向上するわけではありません。HMFのように微生物へ毒性を示す化合物では、過剰な添加が細胞機能や酵素反応を阻害する可能性があります。

Fed-batch運転による基質阻害の回避

高濃度HMFによる阻害を避けるため、HMFを10 mMずつ計4回添加するfed-batch運転が行われました。各添加後にHMFの変換が確認され、125時間にわたって生物変換能力が維持されました。
一方、HMFCAの体積生産性(単位体積・単位時間あたりの生成量)は後半のサイクルで低下しており、反応を継続できることと、一定の生産速度を維持できることは別であることも示されました。リアルタイムデータを利用することで、原料の消費、次回フィードの時期、中間体の残存、反応速度の低下、生成物の回収時期などを検討できます。

リアルタイムNMR分析によって何が分かる?

本研究では、卓上NMRによって次の変化をリアルタイムで捉えました。
 ・HMFの消費
 ・HMFCAの生成
 ・一過性中間体BHMFの出現と消失
 ・基質濃度による反応速度の変化
 ・fed-batch運転中の変換能力
 ・原料と生成物の物質収支
リアルタイム分析は、反応の途中で何が起きているかを理解し次のプロセス操作を判断するための技術です。

卓上NMRを用いた測定デモやアプリケーションのご相談を承っています。

Photontraceのバイオプロセス分析

Photontraceでは、Time-gatedラマン分光を用いた培養液、発酵液、バイオ変換反応などの測定可能性を評価しています。対象成分、培地組成、濃度範囲、蛍光強度、参照分析方法、プローブの設置条件などを確認し、リアルタイムモニタリングへの適用可能性を検討します。
Time-gatedラマン分光と、卓上NMR、クロマトグラフィー、バイオアナライザーなどの分析技術を参照情報として組み合わせることが重要です。
各分析法の特徴を生かしながら、バイオプロセス中の変化を継続的に捉える測定方法をご提案します。

紹介論文

Gómez-Ortega M, Diego S, Morales-Durán F, Merchán F, Blasco R, Neo AG, Marcos CF.
Real-time NMR monitoring of HMF biotransformation by Ectopseudomonas oleovorans CECT 5344 R1D.
Applied Microbiology and Biotechnology, Volume 110, Article 196, 2026.
DOI: 10.1007/s00253-026-13853-7

研究機関:

  • Department of Biochemistry, School of Veterinary Sciences, Universidad de Extremadura, Cáceres, Spain
  • Laboratory of Bioorganic Chemistry & Membrane Biophysics(L.O.B.O.), Departamento de Química Orgánica e Inorgánica, Universidad de Extremadura, Cáceres, Spain

本ページは、上記論文を基にPhotontraceが日本語で内容を要約し、バイオプロセス分析の観点から独自に解説したものです。弊社は、本研究の著者または実施機関とは関係ありません。

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