

Duquesne University、Pfizer、NIPTEによるバイオリアクターモニタリングへのTime-gated Ramanの応用
蛍光の影響を低減し、細胞培養工程の分析感度向上を目指す共同研究
細胞培養工程では、培地成分や細胞由来成分から生じる蛍光が、ラマン測定のS/Nや検出感度を低下させる場合があります。
Duquesne University、PfizerおよびNational Institute for Pharmaceutical Technology and Education(NIPTE)が参加した研究プロジェクトでは、Time-gated Ramanを用いて蛍光の影響を低減し、細胞代謝物や培地中の栄養成分をより高感度に把握することで、in situバイオリアクターモニタリングの高度化が検討されました。
本ページでは、このプロジェクトの背景、Time-gated Ramanが選ばれた理由、研究責任者であるCarl Anderson博士のコメント、およびその後に公開されたCHO細胞培養試料での比較結果をご紹介します。
本記事は、Timegate Instrumentsが公開した参考事例をもとに、関連するCHO細胞培養研究の内容を紹介するものです。
原文は、こちらからどうぞ:https://www.timegate.com/references/reference-case-duquesne-university
プロジェクトの背景
Duquesne University、PfizerおよびNIPTEは、細胞培養工程における化学分析感度の向上を目的として、Time-gated Raman分光器を用いたin situバイオリアクターモニタリングの研究プロジェクトを開始しました。
プロジェクトは、米国のNational Institute for Innovation in Manufacturing Biopharmaceuticals(NIIMBL)の支援を受けて実施され、Duquesne UniversityのCarl Anderson博士が研究を主導しました。
研究には、Timegate InstrumentsのTime-gated Raman分光器PicoRaman M3と、バイオリアクターへの接続を想定したProbePro Miniが使用されました。
Pfizerは、バイオ医薬品製造に関する産業界の視点と科学的知見をプロジェクトへ提供しています。
このプロジェクトの目的は、単に培養液のラマンスペクトルを取得することではありません。
細胞培養工程で変化する代謝物や栄養成分をより高い感度で把握し、バイオプロセスの現在の状態をより正確に理解することで、将来的な工程制御へつなげることを目指しています。
従来ラマンにおける蛍光の課題
ラマン分光法は、試料を破壊せずに分子情報を取得できることから、バイオプロセスにおけるProcess Analytical Technology(PAT)の一つとして利用されています。
特に上流バイオプロセスや発酵工程では、次のような成分や状態のモニタリングへの応用が検討されています。
・細胞代謝物
・培地中の栄養成分
・培養状態
・細胞密度
・目的生産物
・工程条件の変化
一方、培地、ビタミン、タンパク質、細胞由来成分などから強い蛍光が生じると、微弱なラマン散乱が蛍光バックグラウンドに覆われる場合があります。
その結果、次のような問題が生じます。
・目的成分のラマンピークが見えにくくなる
・スペクトルのS/Nが低下する
・低濃度成分の検出が難しくなる
・培養後期や高細胞密度条件で測定性能が低下する
・多変量解析や予測モデルに使用できる情報が減少する
Anderson博士は、上流バイオプロセスにおけるラマン分光法の有用性を評価する一方で、培養環境から生じる過剰な干渉、特に蛍光発光が、従来ラマンの利用を制限する主要因の一つであると説明しています。
Time-gated Ramanが選ばれた理由
Time-gated Ramanは、ラマン散乱と蛍光の発光時間の違いを利用します。
レーザー照射直後に発生するラマン散乱を高速な時間ゲート検出によって取得し、より長い時間継続する蛍光の影響を測定時に低減します。このプロジェクトでTime-gated Ramanが選ばれた理由は、主に次の2点です。
1.蛍光の影響を低減しながらラマン測定ができること
細胞培養試料では、培地成分や細胞由来成分から生じる蛍光が測定を妨げる場合があります。
Time-gated Ramanは、後処理によるベースライン補正だけに依存するのではなく、測定時に蛍光の影響を低減することで、分析に利用できるラマン情報の取得を目指します。
2.研究・工程評価に使用できる市販装置が提供されていたこと
Time-gated Ramanの原理自体は以前から研究されていましたが、従来は専門性の高い研究室で構築された装置が中心で、一般的な研究開発や工程評価へ適用できる市販装置は限られていました。
Timegate Instrumentsが、実際に分光測定へ使用できる装置を出荷可能な状態で提供していたことが、本プロジェクトを実施するうえで重要な要素となりました。
Carl Anderson博士のコメント
研究責任者であるDuquesne UniversityのCarl Anderson博士は、Time-gated Ramanが選ばれた理由について、市販装置として利用可能であったことと、蛍光を抑えながらラマン測定を行えることの重要性を挙げています。
「このような技術は、市販装置としてはほかにありませんでした。Time-gated Ramanは以前から存在していましたが、これまでは高度に専門化された研究室に限られ、日常的な応用に使用できる装置として利用することができませんでした」
また、Time-gated Ramanの技術的な価値について、次のように述べています。
「蛍光の影響を最小限に抑えながら、ラマン測定とモニタリングを行えることが、この技術の極めて重要な点です」
Anderson博士は、細胞代謝物や培地中の栄養成分について検出限界を改善できれば、バイオプロセスの現在の化学的状態をより正確に理解し、工程をより効果的に制御できる可能性があると説明しています。
医薬品・バイオ製造への期待
Anderson博士は、Time-gated Ramanの技術的な可能性だけでなく、この研究が医薬品産業や患者にもたらし得る価値について、次のように述べています。
「私たちは、この技術を医薬品産業へ導入できることに期待しており、産業上重要な課題の解決につながると考えています。より優れたバイオ医薬品を、より低いコストで製造するための科学に取り組み、その成果が最終的に患者さんの利益につながることを期待しています」
これは、本プロジェクトが単なる分光装置の性能評価ではなく、バイオ医薬品製造における工程理解とモニタリングを改善し、製造効率や製品品質の向上へつなげることを目指していることを示しています。
これらのコメントから、Time-gated Ramanが単に蛍光を低減して明瞭なスペクトルを取得するための技術ではなく、従来ラマンでは評価が難しかったバイオプロセスの化学的状態をより正確に把握し、実用的な工程分析や工程制御へつなげるための技術として選定されたことが分かります。
ここまでは、NIIMBLプロジェクト開始時に公開されたTimegate InstrumentsのReference Caseに基づく内容です。
その後、Duquesne Universityの研究チームから、CHO細胞培養試料を用いた比較研究の結果が報告されました。
バイオ製造への実装を見据えた研究
企業が実際のプロセスラインへ適用しやすくするためには、一般に次のような基礎的検討が必要になると考えられます。
・実際の細胞培養試料でスペクトルを取得できること
・蛍光の影響を十分に低減できること
・対象成分について必要なS/Nと検出感度が得られること
・複雑な培地や高細胞密度条件でも測定性能を維持できること
・参照分析値とラマンスペクトルの関係を評価できること
・プローブを含む測定形態を工程へ適合できること
本研究は、Time-gated Ramanを特殊な研究室内の技術にとどめず、企業がバイオ製造工程で利用できる分析技術へ発展させるための基礎研究として位置づけられています。
その後に公開されたCHO細胞培養での比較研究
その後、Duquesne Universityの研究チームは、CHO細胞培養試料を用いて、従来ラマンとTime-gated Ramanの分析性能を比較した研究結果を公開しました。この研究では、実際の細胞培養試料を対象として、蛍光の影響、ラマン信号のS/N、対象成分の検出限界などが評価されています。その結果、Time-gated Ramanによって蛍光干渉が低減され、細胞培養中の主要成分をより高感度に検出できる可能性が示されました。研究方法、評価対象成分、従来ラマンとの比較結果については、以下のページで詳しくご紹介します。
原文はこちらからどうぞ:https://www.timegate.com/resources/references/advancing-extracellular-vesicle-production-and-quality-control-with-timegated-raman-technology
Time-gated Ramanによるモデル開発
Photontraceでは、Time-gated Ramanをバイオプロセスモニタリングへ展開するため、段階的な評価を推奨しています。
最初から完成された予測モデルやin situ工程制御を目指すのではなく、実試料でスペクトルを取得できるかを確認し、参照分析値との初期的な関係、複数条件での再現性、複数バッチへの適用可能性を順番に評価します。各段階の目的、必要なデータ、次の段階へ進む判断については、以下のページでご紹介しています。
日本国内でのデモ測定・導入前評価
Photontraceでは、Timegate Instrumentsの日本国内パートナーとして、Time-gated Ramanのデモ測定、実試料評価、データ解析および装置導入前評価をサポートしています。
バイオプロセスへの適用を検討する際には、まず実試料を用いて次の点を確認します。
・試料から生じる蛍光の程度
・Time-gated Ramanによる蛍光低減効果
・対象成分に関係するラマン情報の有無
・必要なS/Nが得られるか
・測定時間と再現性
・濁り、気泡、不均一性の影響
・培養条件や濃度変化によるスペクトル差
・参照分析値との初期的な関係
・プローブを含む測定形態の適合性
まだ対象成分や測定方法が明確になっていない段階でも、現在の分析方法、対象試料、確認したい成分や状態をもとに、評価の進め方をご相談いただけます。
関連ページ
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培地、培養液、細胞培養、発酵などにおけるTime-gated Ramanの活用、対象試料、測定項目、モデル開発、導入前評価をご紹介しています。
上流バイオプロセスにおけるTime-gated Ramanの有効性
CHO細胞培養試料を用いた、Time-gated Ramanと従来ラマンのS/N、検出限界およびピーク識別性の比較結果を詳しく解説しています。
出典・関連資料
本ページは、Timegate Instrumentsが公開している以下の資料をもとに、許可を得て日本語で内容を紹介しています。
・Pfizer, NIPTE, and Duquesne University Project to Improve Bioreactor Monitoring with Timegated® Raman
Timegate Instruments、2023年6月27日
・Advancing Extracellular Vesicle Production and Quality Control with Timegated® Raman Technology
Timegate Instruments
・Shaikat, M. M., Dhara, V. G., Drennen, J. K. et al.
Enhancing analytical sensitivity in upstream bioprocess using time-gated Raman spectroscopy.
Bioprocess and Biosystems Engineering, 2025.
本ページで紹介する研究は、Duquesne University、Pfizer、NIPTE、NIIMBLなどによる研究プロジェクトおよび公開研究成果です。弊社が本共同研究へ直接参加したことを示すものではありません。
