

蛍光バックグラウンドに埋もれたラマンピークを、Time-gatedラマン分光器で可視化する
ラマン分光では、試料由来の蛍光バックグラウンドが強い場合、目的とするラマンピークが広い背景信号に埋もれてしまい、スペクトルの解釈が難しくなることがあります。特に、材料、製剤、バイオ関連試料、着色試料などでは、励起波長を変更しても十分に蛍光の影響を抑えられない場合があります。
Photontraceでは、Time-gatedラマン分光器を用いて、こうした蛍光干渉が強い試料の実測評価を行っています。”時間ゲート抽出”によって蛍光バックグラウンドの影響を低減し、従来のラマン分光では埋もれていたラマンピークを確認できるかどうかを、実試料ベースで評価します。
さらに、測定データの比較解析・可視化・レポート化を支援する独自の解析アプリも開発しています。以下では、独自開発の解析アプリを用いて、時間ゲート抽出により蛍光バックグラウンドの影響を低減し、ラマンピークを確認していく流れをご紹介します。
時間ゲート抽出前のTimegatedラマンのraw参照スペクトル
まず、時間ゲート抽出前のraw参照スペクトルを確認します。 下記の図1では、広いバックグラウンドが支配的であり、個々のラマンピークを明確に判別することは容易ではありません。これは、蛍光干渉が強い試料において従来ラマン測定で直面しやすい状況を示すものです。
図1はTime-gatedラマン分光器で取得したraw参照データですが、時間ゲート抽出前の状態として、蛍光背景がピーク確認を妨げる様子を示しています。Sample A1、Sample C1ともにReference spectrum (raw) は広い背景が支配的で、ピーク確認が難しい状態です。

図1.Timegateラマン分光器による、時間ゲート抽出前のraw参照スペクトル。蛍光背景が支配的で、ラマンピークの確認が難しい状態。
選択”時間ゲート”から抽出したスペクトル
次に、自動で選択した時間ゲート範囲からスペクトルを抽出し、ベースライン補正および正規化を行いました。時間ゲート範囲は、測定結果に応じてオペレーターが任意に指定することも可能です。下記図2に示します。
Time-gatedラマン分光システムでは、ラマンスペクトルだけでなく、時間方向の信号変化も確認できます。図2は、選択した波数範囲における時間プロファイルを示したものです。図2内で薄い緑色で示した範囲は、スペクトル抽出に使用した時間ゲート範囲です。
試料によっては、蛍光成分がラマン散乱に比べて遅れて残る場合があります。そのため、時間ゲートを適切に設定することで、蛍光バックグラウンドの影響を抑えたスペクトル抽出が可能になります。本例では、信号の立ち上がりの6.8ナノ秒辺りからピーク手前付近の7.0ナノ秒を少し過ぎた時間範囲を中心に時間ゲートを設定し、その範囲からラマンスペクトルを抽出しています。

図2.選択した波数範囲における時間プロファイル。緑色の範囲は、スペクトル抽出に使用した時間ゲート範囲。
時間ゲート抽出後のスペクトル(下図3)では、raw参照スペクトルでは確認しにくかったピークが、複数の波数位置で確認できます。 今回SampleA1の例では、634、858、1292、1616、1727 cm⁻¹付近などに代表的なピークが確認できます。図3ではSNV処理後の比較スペクトル上に、これらのピーク位置をラベル表示しています。このようにTime-gatedラマンでは、蛍光とラマン散乱の時間応答の違いを利用して、蛍光バックグラウンドの影響を低減し、従来のラマン分光では蛍光の影響で埋もれていたラマンピークを確認できる場合があります。

図1.(右上)の”raw参照スペクトル”では確認が難しかったピークが、
”時間ゲート抽出”後には複数の波数位置でピークが確認できます。

補足図:時間ゲート抽出前のraw参照スペクトル。(上記図1)
時間ゲートヒートマップによる信号分布の確認
Time-gatedラマンでは、選択した時間ゲート範囲からスペクトルを抽出するだけでなく、波数方向と時間方向における信号分布をヒートマップとして確認することもできます。下記の図4は、Sample A1について、時間ゲートを変化させながら取得した信号強度をヒートマップ表示した例です。横軸は波数、縦軸はゲート中心時間を示しており、色の明るい領域ほど信号強度が高いことを表しています。図中の水色で示した範囲は、スペクトル抽出に使用した時間ゲート範囲です。
このようなヒートマップ表示により、どの波数領域で信号が現れているか、また選択した時間ゲート範囲において目的とする信号が含まれているかを視覚的に確認できます。例えば、500–900cm⁻¹付近では、858 cm⁻¹付近に対応する信号帯が確認しやすく、抽出スペクトル上のピークとの対応関係を確認する際にも有用です。

図4 時間ゲートヒートマップ表示例。横軸は波数、縦軸はゲート中心時間を示す。水色の点線枠の範囲は、スペクトル抽出に使用した時間ゲート範囲。
ヒートマップとラマンスペクトルの重ね合わせ表示
さらに、時間ゲートヒートマップと、同じ時間ゲート範囲から抽出したスペクトルを重ね合わせることで、ヒートマップ上の信号分布とスペクトルピークの対応を確認できます。
図5では、背景に時間ゲートごとのヒートマップを表示し、その上に同じ時間ゲート範囲から抽出したスペクトルを重ねています。これにより、ピーク位置と時間ゲート上の信号分布を同時に確認できます。
デフォルトの波数範囲、250-2500cm⁻¹範囲から、図5のように波数範囲500–900cm⁻¹に絞ることで、ワイドレンジで確認しづらかった634cm⁻¹や858cm⁻¹付近のピークと時間ゲート範囲で抽出したヒートマップ上の縦方向の信号帯が対応していることが分かりやすくなります。このような表示は、時間ゲート範囲の妥当性確認や、蛍光バックグラウンドの影響を受けたデータからラマンピークを確認する際の補助情報として有用です。


図5.時間ゲートヒートマップと抽出スペクトルの重ね合わせ表示。ピーク位置と時間ゲート上の信号分布を同一波数軸で確認できる。
まとめ
蛍光バックグラウンドが強い試料では、従来ラマン測定においてピークの確認が難しくなることがあります。Time-gatedラマン分光では、時間ゲートを用いて蛍光成分の影響を低減し、ラマン信号を抽出することで、従来は確認が難しかったピークを可視化できる可能性があります。
Photontraceでは、実試料を用いたTime-gatedラマン分光測定、時間ゲート条件の検討、スペクトル比較、ヒートマップ解析、Time-gated Ramanデータの解析・可視化アプリケーション開発まで対応しています。
蛍光干渉により従来ラマンで評価が難しい試料について、測定可否の事前確認、導入前PoC、解析レポート作成をご希望の場合はご相談ください。
