Time-gated Ramanによるモデル開発

― 測定可否確認からPATへの展開 ―

Time-gated Ramanを用いたモデル開発では、実試料での測定可否を確認し、参照分析値との関係や再現性を

段階的に評価することが重要です。

Photontraceでは、R&D段階におけるTime-gated Ramanの適用可能性評価、測定条件の検討、実試料評価、

初期的なデータ解析を支援しています。

ここでは、実試料による測定可否確認から、参照分析値との相関評価、at-line・in situ測定への展開検討まで、

モデル開発に向けた一般的な流れをご紹介します。

Photontraceでは、Step 1からStep 5までのR&D段階における測定可否確認、条件検討、参照分析値との関係評価、

複数条件・複数バッチでの初期評価を中心に支援しています。

Step 6のat-line・in situ測定は初期的な測定方法の検討まで、Step 7のPAT・生産工程導入は専門家・パートナーとの

連携領域となります。


目的

最初に、Time-gated Ramanを用いて何を確認したいのかを明確にします。

対象成分の濃度を推定したいのか、試料や培養状態を分類したいのか、工程中の変化や異常の兆候を捉えたいのかによって、

必要な試料、参照分析法、データ数、評価方法が異なります。

また、測定結果を研究上の傾向把握に使用するのか、将来的に工程モニタリングへ展開したいのかについても整理します。

参照分析値がない場合でも、スペクトル比較やPCAなどを用いて、試料間・条件間・時間経過による変化を探索的に評価できます。

ただし、変化に関与する成分の特定や定量には、原則として対応する参照分析値が必要です。

確認する項目

・対象となる試料

・確認したい成分または状態

例:グルコース、乳酸、グルタミン、アンモニアなどの成分濃度、細胞密度、培養状態、原料・製品の分類、工程中の変化など

※上記は検討対象の例です。測定可否や得られる精度は、試料マトリックス、濃度範囲、共存成分、参照分析値、測定条件などによって異なります。

・定量、分類、比較、異常兆候検出などの測定目的

・現在使用している分析方法

・対応する参照分析値を取得できるか

・必要とする測定時間や測定頻度

・必要とする精度または判断基準

・将来的に想定する測定形態

測定目的に応じた解析方法の例

測定目的に応じて、以下のような解析方法を検討します。

・スペクトル比較:試料間、条件間、時間経過による変化の確認

・PCA:試料の傾向、群間差、外れた試料の探索的な把握

・PLS回帰:参照分析値を用いた特定成分の定量モデル構築

・分類モデル:試料の種類、状態、正常・異常などの分類

解析方法は、測定目的、試料数、参照分析値の有無、データのばらつきなどを踏まえて選択します。

次のステップへ進む判断

測定目的、対象試料、評価したい成分または状態、想定される変動範囲、および利用可能な参照分析法を整理できた段階で、

実試料による測定可否確認へ進みます。


目的

実際の試料から、評価に使用できるTime-gated Ramanスペクトルが取得できるかを確認します。

培地、発酵液、培養液、細胞、生体関連試料、医薬品、ポリマーなどでは、蛍光、濁り、不均一性、共存成分、測定容器などの

影響により、目的とするラマン信号を確認しにくい場合があります。

この段階では、モデル構築を急ぐのではなく、まず測定条件を検討し、再現性のあるスペクトルを取得できるかを評価します。

確認する項目

・蛍光バックグラウンドの影響

・ラマン信号の強度

・スペクトル形状の再現性

・スペクトルのS/N

・測定間及び試料間のばらつき

・測定時間

・レーザーパワー

・時間ゲート条件

・試料の濁りや不均一性

・測定位置や焦点位置

・レーザー照射による試料変化

・測定容器や基材からの影響

次のステップへ進む判断

同一試料または同一条件で再現性のあるスペクトルが得られ、試料間または条件間の違いを評価できるスペクトル品質が確認された場合、

参照分析値との初期的な関係の評価へ進みます。


目的

Time-gated Ramanスペクトルと、既存の分析方法によって得られた参照分析値との間に、モデル開発を検討できる関係や

予測可能性があるかを確認します。

参照分析には、HPLC、LC-MS、バイオアナライザ、細胞分析装置、吸光分析など、対象成分や試料に応じた方法を使用します。

この段階では、商用生産工程で使用する完成された予測モデルを構築することが目的ではありません。

対象成分や試料状態の変化を、Time-gated Ramanスペクトルから捉えられる可能性があるかを探索的に評価します。

定量を目的とする場合には、PLS回帰などを用いて、スペクトルから対象成分を予測できる可能性を評価します。

分類を目的とする場合には、まずPCAなどを用いて試料の傾向、群間差、外れた試料を探索的に把握し、必要に応じて

分類モデルの構築可能性を検討します。

必要なデータ

・Time-gated Ramanスペクトル

・ラマン測定と対応付けられた同一試料、同一採取時点または同一工程時点の参照分析値

・試料採取時刻

・培養時間または工程時間

・測定条件

・試料の状態や処理履歴

ラマン測定と参照分析の間に時間差がある場合や、試料採取後に成分が変化する場合には、その影響を考慮する必要があります。

次のステップへ進む判断

対象成分または試料状態の変化とスペクトルとの間に一定の変化が確認され、参照分析値との関係をさらに評価する価値があると

判断できた場合、条件や濃度範囲を広げたデータ取得へ進みます。


Screenshot

目的

初期的な相関が確認された後、実際に想定される濃度範囲や試料条件を含めて、モデル開発に必要なデータを取得します。単一の濃度、単一の培養時間、単一のバッチだけで得られた相関は、実際の運用条件では再現できない場合があります。
そのため、将来的にモデルを使用する範囲を考慮し、対象成分の濃度、試料状態、培養条件、原料差などを広げながらデータを取得します。
モデル開発時に十分に含まれていない濃度範囲や試料条件への外挿では予測性能を保証できないため、原則として適用範囲内で使用する必要があります。

検討する条件

・対象成分の濃度範囲

・培養または反応時間

・細胞密度

・培地組成

・pH

・温度

・原料ロット

・試料の濁り

・共存成分

・正常範囲内の工程変動

・必要に応じた添加試料や調製試料

データ数を増やすことだけが目的ではありません。将来の測定対象を科学的に代表するように、

試料条件を設計することが重要です。

次のステップへ進む判断

想定する濃度範囲や試料条件を含むデータが得られ、異なる条件でも対象成分や状態との関係が維持されていることを

確認できた場合、複数バッチでの再現性評価へ進みます。


目的

異なる日に実施した培養、異なる原料ロット、異なる試料調製条件などでも、同様の関係が得られるかを確認します。

単一バッチ内では、対象成分の濃度と培養時間、細胞密度、代謝状態などが同時に変化するため、見かけ上の高い相関が

得られる場合があります。

同一データセット内のCross-validationだけでなく、可能であればモデル構築に使用していないバッチや試料を用いて

予測性能を確認します。

複数バッチを用いることで、モデルが対象成分そのものに関連する情報を捉えているのか、特定のバッチや条件だけに

依存しているのかを評価します。

確認する項目

・バッチ間の再現性

・日間差

・原料ロット差

・培地ロット差

・試料調製差

・測定担当者による差

・装置状態による差

・対象成分以外の工程変動

・独立した試料での予測性能

必要に応じて、モデル構築に使用していない独立試料を用いて、探索的に予測精度やバイアスを確認します。

これは、商用利用に向けた正式な分析法バリデーションとは区別して実施します。

次のステップへ進む判断

複数バッチや独立試料でも一定の予測性能と再現性が確認され、研究用途または工程近傍での測定に利用できる可能性が

あると判断した場合、at-line・in situ測定への展開を検討します。


目的

オフライン測定で適用可能性が確認された後、実際の研究環境や工程環境に近い測定形態へ展開できるかを検討します。

測定対象や目的に応じて、工程から採取した試料を近傍で測定するat-line測定や、プローブを試料または装置内に設置して

継続的に測定するin situ測定などが考えられます。

用途によっては、試料を自動的に測定系へ導くon-line測定や、工程内にプローブを設置するin-line/in situ測定も検討します。

検討する項目

・測定場所

・測定頻度

・必要な応答時間

・プローブ形状

・プローブの設置位置

・焦点位置

・撹拌や流れの影響

・気泡の影響

・プローブ表面への付着

・洗浄や滅菌への対応

・測定条件の固定

・オフライン測定とのデータ差

・参照分析との時間同期

in situ測定では、培養開始から終了までプローブ位置や測定条件を原則として一定に保つことが重要です。

測定系の変化と、実際の試料や工程の変化を区別できるように設計する必要があります。

次のステップへ進む判断

工程環境に近い条件でも安定したスペクトルが取得でき、オフライン測定で確認した関係が維持される場合、

将来的なPATや生産工程への導入可能性を検討します。


目的

研究段階での評価結果を、生産工程におけるPATや工程モニタリングへ展開する場合には、R&D評価に加えて、品質システム、

バリデーション、変更管理などの専門的な検討が必要です。

生産工程でモデルの予測値を工程判断や制御に使用する場合、研究用途よりも高いレベルの再現性、信頼性、文書化が

求められます。

追加で必要となる検討

・モデルの使用目的

・モデル適用範囲

・モデル構築に使用していない独立試料によるバリデーション

・装置およびプローブの適格性評価

・データインテグリティ

・外れ値の管理

・OOT・OOSとの切り分け

・故障時の代替分析

・モデル性能の継続的な監視

・再校正の基準

・装置やソフトウェア変更時の影響評価

・GMP環境への適合

・規制当局への説明や申請戦略

Photontraceの支援範囲

Photontraceでは、R&D段階における以下の評価を中心に支援しています。

・実試料による測定可否確認

・測定条件の検討

・通常ラマンとの比較(必要に応じて)

・Time-gated Ramanスペクトルの取得

・参照分析値との初期的な関係の確認

・探索的なPCA・PLS解析

・複数条件や複数バッチでの初期評価

・at-line・in situ測定に向けた測定方法の検討

生産工程で使用するモデルの構築、GMPバリデーション、工程制御、製品出荷判定、RTRTなどについては、

関連する専門家・パートナーと連携し、初期評価結果を次の検討段階へつなげます。


Time-gated Ramanによるモデル開発では、最初から多数の試料や複雑なモデルを準備する必要はありません。

まずは少量の実試料を用いて、測定可能なスペクトルが得られるかを確認します。

その後、参照分析値との関係、条件や濃度範囲、複数バッチでの再現性を段階的に評価することで、

次のステップへ進む価値があるかを判断できます。

Photontraceでは、装置導入を前提としない測定可否確認、依頼測定、R&D段階のPoC評価についてご相談いただけます。


差し支えない範囲で、以下の情報をお知らせいただけますと、評価方法を検討しやすくなります。

対象となる試料

確認したい成分や状態

想定される濃度範囲

現在使用している分析方法

現在の測定で課題となっている点

試料数

希望する測定形態

将来的に想定する用途

具体的な試料や測定目的をお伺いしたうえで、測定可否確認から次段階の評価まで、適切な進め方をご提案します。


本ページで紹介する7つのステップは、ICHガイドラインおよびPATに関するガイダンスの考え方を参考に、R&D段階におけるTime-gated Ramanの評価フローとして弊社で独自に整理したものです。

ICHガイドラインは主として医薬品の分析法開発および品質管理を対象としています。本ページでは、その科学的・リスクベースの考え方を参考にしていますが、医薬品以外の試料に対する規制を意味するものではありません。

Photontraceの評価ステップ参考
Step 1 測定目的の整理ICH Q14:Analytical Procedure Development:分析法の意図する目的、分析対象、要求性能の明確化
Step 2 実試料による測定可否確認ICH Q14FDA PAT Guidance:分析技術の選択、予備評価、測定条件およびロバストネスの検討
Step 3 参照分析値との初期相関評価ICH Q14:多変量モデル、参照分析法およびモデル確立に関する考え方
Step 4 条件・濃度範囲を広げたデータ取得ICH Q14ICH Q2(R2):Validation of Analytical Procedures:試料の代表性、分析範囲、変動要因および分析法性能の検討
Step 5 複数バッチでの再現性評価ICH Q14ICH Q2(R2):独立試料による検証、精度、真度、ロバストネスおよびモデル性能の評価
Step 6 at-line・in situへの展開検討ICH Q8(R2):Pharmaceutical DevelopmentFDA PAT Guidance:工程理解、工程近傍・工程内測定およびリアルタイムモニタリング
Step 7 PAT・生産工程導入に向けた専門評価ICH Q8(R2)ICH Q9(R1):Quality Risk ManagementICH Q10:Pharmaceutical Quality SystemICH Q12:Pharmaceutical Product Lifecycle ManagementFDA PAT Guidance:品質リスク、品質システム、バリデーション、変更管理およびライフサイクル管理

※上記は、各ステップと関連する規制文書の考え方を整理したものです。上記ステップがICH等に規定された公式手順であることや、個別の分析法・製造工程に対する規制適合性を示すものではありません。

Time-gated Ramanのモデル開発やPATへの展開について、実務経験や専門的知見をお持ちの方からのご意見も歓迎しております。

記載内容についてお気づきの点がございましたら、お問い合わせフォームもしくは、pt@photontrace.jpまでぜひお知らせください。

参考情報

試料の種類や測定条件についての事前相談も可能です。Timegateラマンの製品情報は、こちらからどうぞ。


よくあるご質問

Q1. Time-gated Ramanは蛍光を完全に除去できますか?

Time-gated Ramanは、ラマン散乱と蛍光の発光時間の違いを利用して蛍光背景の影響を低減する手法です。試料によって高い効果が期待できる場合がありますが、すべての試料で蛍光を完全に除去できるとは限りません。

Q2. 従来の連続波(CW)ラマンと何が違いますか?

従来のCWラマンは時間ゲートを行わずに散乱光を積算するのに対し、Time-gated Ramanは時間情報を利用してラマン散乱が発生する短い時間領域を選択的に検出します。そのため、蛍光背景の影響を抑えやすい点が大きな違いです。

Q3. どのような試料で効果が期待されますか?

生体試料、有機材料、ポリマー、医薬品原料、発酵液、培養液など、蛍光が課題となりやすい試料で有効性が期待されます。実際の適用性は試料や条件により異なります。

Q4. 785nmなど長波長励起ではだめなのですか?

785nmなど長波長側の励起によって蛍光の影響が軽減される場合はあります。ただし、試料によってはそれでも蛍光背景が大きく、十分なS/Nが得られないことがあります。そのような場合に、Time-gatedラマン分光が有力な選択肢になることがあります。また、バイオリアクターやPAT用途では785nmプロセスラマンが広く用いられていますが、培地成分、添加剤、細胞由来成分などによる蛍光バックグラウンドが強い場合には、導入前に実試料でスペクトル品質を確認することが重要です。

Q5. 測定前に相談できますか?

はい。試料の種類、測定目的、現在の課題、既存データの有無などをもとに、事前相談が可能です。従来法でうまくいかなかった試料についてもご相談ください。

Q6.日本国内でTime-gated Ramanの受託測定はできますか?

はい。Photontraceでは、日本国内でTime-gated Ramanによる受託測定、実試料評価、導入前PoCに対応しています。通常ラマン、長波長励起、FT-Ramanなどでも蛍光の影響が残る試料について、Time-gated Ramanで評価可能なスペクトルが得られるかを実試料で確認できます。

Q7. ラマン散乱と蛍光は何が違いますか?

ラマン散乱は、入射光と分子との相互作用によって生じる散乱光の一種で、分子振動や化学結合に関する情報を反映します。一方、蛍光は、試料が光を吸収して励起状態となった後、発光として光を放出する現象です。蛍光はラマン信号よりも強く現れることがあり、目的とするラマンピークを覆ってしまう原因になります。Photontraceでは、このような蛍光干渉が課題となる試料について、Time-gated Ramanによる低減可能性を実試料で評価します。

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