

蛍光の影響を抑え、培養・発酵プロセスから分子情報を取得する
細胞培養、微生物培養、発酵などのバイオプロセスでは、培地成分、細胞由来成分、代謝物、添加剤などが複雑に共存しています。
これらの試料をラマン分光で測定する場合、試料から生じる強い蛍光によってスペクトルのベースラインが上昇し、目的成分に由来するラマンピークが見えにくくなることがあります。
Time-gated Ramanは、ラマン散乱と蛍光の発光時間の違いを利用して、蛍光バックグラウンドの影響を測定時に低減する分光技術です。
培地、培養液、発酵液などの複雑な試料から、成分や培養状態に関係するスペクトル情報を取得し、プロセス理解、条件比較、参照分析値との関係評価、将来的な工程モニタリングへ展開できる可能性があります。
Photontraceでは、実試料による測定可否確認、測定条件の検討、スペクトル比較、データ解析、参照分析値との初期的な関係評価、デモ測定および導入前評価を国内でサポートしています。
バイオプロセスにおける分析上の課題
バイオプロセスでは、培養や反応の進行に伴い、細胞密度、栄養成分、代謝物、目的生産物、培地組成などが連続的に変化します。一方、現在広く利用されているHPLC、LC-MS、バイオアナライザー、細胞分析装置などの多くは、工程から試料を採取して測定するオフライン分析です。オフライン分析は正確な参照値を得るために重要ですが、次のような課題が生じる場合があります。
・サンプリングから結果取得までに時間がかかる
・前処理や測定作業の負担が大きい
・測定間隔の間に生じた変化を捉えにくい
・多数の培養条件やサンプルを比較する際に分析負荷が増える
・培養液や発酵液の蛍光により、従来ラマンでは十分なスペクトルが得られない
Time-gated Ramanは、既存の参照分析を直ちに置き換えるものではありません。まず、参照分析値とラマンスペクトルを組み合わせ、対象成分や培養状態の変化をスペクトルから捉えられるかを段階的に評価します。その結果に応じて、オフライン測定からat-line、in situモニタリングへの展開を検討します。
バイオプロセスでの活用
・培地・培養液の評価
培地、フィード、培養上清などのスペクトルを取得し、培地組成、ロット、添加条件、培養時間などによる違いを比較します。複数条件のスペクトルを重ね合わせるほか、PCAなどの多変量解析を用いて、試料間の傾向やグループ分離を確認することもできます。
・代謝物・栄養成分の評価
グルコース、乳酸、グルタミン、グルタミン酸、アンモニア、アラニンなど、培養中に変化する成分とラマンスペクトルとの関係を評価します。
参照分析値がある場合には、PLS回帰などを用いて、スペクトルから対象成分を予測できる可能性を探索的に検討します。
・細胞培養状態の比較
細胞株、培養条件、培養時間、フィード条件、誘導条件などが異なる試料のスペクトルを比較し、培養状態の変化や条件差を捉えられるかを確認します。
ラマン分光では細胞の形態を画像として観察するのではなく、細胞や培養液に含まれる分子情報の変化をスペクトルとして取得します。
・抗体医薬品製造プロセスへの展開
CHO細胞などを用いた抗体医薬品製造では、代謝物、栄養成分、細胞密度、IgG濃度などが重要なプロセス指標となります。
Time-gated Ramanは、培地や細胞由来成分による蛍光の影響を低減し、抗体医薬品を含むバイオ医薬品の培養工程について、より高感度な分光測定や工程モニタリングを検討するための技術として研究されています。
・発酵・微生物培養の評価
微生物株、培地組成、培養時間、誘導条件、原料添加条件などが異なる発酵液を測定し、プロセスの進行や条件差をスペクトルから捉えられるかを評価します。
濁り、不均一性、蛍光、気泡などが測定へ影響する可能性があるため、実試料を用いた事前評価が重要です。
・オフラインからat-line・in situへの展開
初期段階では、採取した試料を用いたオフライン測定により、スペクトル品質、再現性、目的成分との関係を確認します。
その後、複数条件や複数バッチでのデータ取得を進め、測定の有効性が確認された場合に、浸漬プローブなどを用いたat-lineまたはin situ測定への展開を検討します。
対象試料
Time-gated Ramanによる評価対象として、次のような試料が考えられます。
・細胞培養用培地
・培養液、培養上清
・フィード培地、添加剤
・CHO細胞などの動物細胞培養試料
・微生物培養液、発酵液
・微細藻類培養液
・細胞由来成分を含む試料
・高細胞密度の培養試料
・蛍光の影響が強い培地や培養液
・濁りや不均一性を伴う試料
・抗体医薬品製造に関連する培養工程試料
実際の測定可否や取得できる情報は、試料組成、濃度、蛍光強度、濁り、測定形態などによって異なります。
評価対象となる成分・状態
対象試料と目的に応じて、次のような成分や状態変化を検討できます。
代謝物・栄養成分
・グルコース
・乳酸
・グルタミン
・グルタミン酸
・アンモニア
・アラニン
・その他のアミノ酸や培地成分
培養・プロセス指標
・培養時間によるスペクトル変化
・細胞密度の変化
・培養条件やフィード条件の違い
・細胞株や微生物株の違い
・培地ロットや組成の違い
・目的生産物濃度との関係
・培養状態や代謝状態の傾向
・異常状態や通常状態の分類可能性
対象成分を定量できるかどうかは、対象成分固有のラマン信号、濃度範囲、共存成分、参照分析値の品質、取得するデータ数などに左右されます。
Time-gated Ramanによるモデル開発へのステップ
ラマンスペクトルから培養成分やプロセス状態を予測するためには、十分な品質と範囲を持つスペクトルデータおよび参照分析値が必要です。Photontraceでは、最初から完成された予測モデルの構築を目指すのではなく、次のような段階を踏んで適用可能性を評価することを推奨しています。
・測定目的と成功条件の整理
・実試料による測定可否確認
・参照分析値との初期的な関係評価
・条件や濃度範囲を広げたデータ取得
・複数バッチでの再現性評価
・at-line・in situ測定への展開検討
・PATや生産工程導入に向けた専門体制での評価
各段階の目的、必要なデータ、次の段階へ進む判断については、別ページで詳しくご紹介しています。
バイオプロセス応用事例

バイオリアクターモニタリングにTime-gated Ramanが選ばれた背景
Duquesne University、PfizerおよびNIPTEが参加した共同研究プロジェクトでは、バイオリアクター内の細胞代謝物や栄養成分を、より高い化学感度で測定することが検討されました。
従来のラマン分光では、細胞培養環境に由来する蛍光によってS/Nが低下し、目的成分の信号が見えにくくなる場合があります。
このプロジェクトでは、蛍光の影響を測定時に低減できることに加え、研究に使用できるTime-gated Raman装置が市販装置として提供されていたことが、技術選定の重要な要素となりました。
プロジェクトの背景、研究者のコメント、Time-gated Ramanが選ばれた理由をご紹介します。

CHO細胞培養におけるTime-gated Ramanの分析感度
CHO細胞培養試料を対象として、Time-gated Ramanと従来ラマンの分析性能を比較した研究が公開されています。
グルコース、乳酸、アンモニア、グルタミン、アラニンを対象に、ラマンピークの識別性、S/Nおよび検出限界が比較され、Time-gated Ramanによる分析感度の向上が報告されました。
本研究の測定方法、Net Analyte Signal(NAS)を用いた評価、S/Nおよび検出限界の比較結果を、別ページで詳しくご紹介しています。
導入前に実試料で確認すること
Time-gated Ramanの有効性は、試料や工程条件によって異なります。バイオプロセスへの適用を検討する場合には、次の点を実試料で確認することが重要です。
・蛍光の影響を十分に低減できるか
・目的成分や状態変化に対応する情報が得られるか
・必要なS/Nと再現性が得られるか
・測定時間が工程や運用条件に適しているか
・濁り、気泡、不均一性などの影響が許容できるか
・参照分析値との関係を評価できるか
・プローブや測定容器を含む測定形態が適合するか
実試料による測定可否確認、評価測定、PoC、データ解析、装置導入前評価についてご相談ください。
Photontraceがサポートできること
弊社は、Timegate Instrumentsの日本国内パートナーとして、次の支援を行っています。
・測定目的と課題の整理
・実試料による測定可否確認
・測定条件の初期検討
・従来ラマンとの比較
・複数スペクトルの比較と可視化
・PCAによる傾向把握
・参照分析値との初期的な関係評価
・デモ測定、受託測定、PoC
・装置導入前の実機評価
・at-line、in situ測定への展開相談
まだ測定対象や評価方法が明確になっていない段階でも、現在の分析方法、対象試料、確認したい成分や状態をもとに、検討の進め方をご相談ください。
