

Timegateラマン分光とは?
ラマン分光は、物質にレーザー光を照射した際に生じるラマン散乱を測定することで、分子構造や材料の化学情報を解析する分光技術です。
材料科学、化学、医薬、バイオ分野など、幅広い研究分野で利用されています。一方で、従来のラマン分光では試料から発生する蛍光(フルオレッセンス)が強い場合、ラマン信号が蛍光背景に埋もれてしまい、正確なスペクトル取得が困難になることがあります。
Timegateラマン分光(Time-gated Raman spectroscopy:TGRS)は、この課題を解決するために開発された技術で、時間ゲート検出を利用して蛍光成分を効果的に除去し、ラマン信号のみを抽出することができます。

Timegateラマン分光の原理

ラマン散乱と蛍光は、発光するまでの時間スケールが異なります。
ラマン散乱はレーザー照射とほぼ同時に発生する瞬時の散乱現象であるのに対し、蛍光は一般的にナノ秒オーダーの遅れを伴って発光します。
Timegateラマン分光では、この時間差を利用して検出を行います。
具体的には、パルスレーザーによる励起と高速検出器を組み合わせ、ラマン散乱が発生する極めて短い時間領域のみを検出する「時間ゲート」を設定します。
この時間ゲートにより、遅れて発生する蛍光成分を除外し、ラマン散乱信号のみを選択的に取得することが可能になります。
Timegateラマン分光のメリット
Timegateラマン分光には、従来のラマン分光と比較していくつかの利点があります。まず、蛍光背景の影響を大きく抑制できるため、蛍光を発する試料でもラマン信号を取得できる可能性があります。また、背景ノイズが低減されることで、スペクトルの信号対雑音比(S/N)が向上し、微弱なラマン信号の検出にも有利になります。さらに、従来のラマン分光では解析が困難であった材料に対しても適用できる可能性があるため、材料研究や化学分析などの分野で新しい分析手法として注目されています。
Timegateラマン分光の分析例
■ 鉱物試料の測定例(リチウム鉱石)

リチウムを含む鉱物試料のラマンスペクトルを、従来ラマン分光(CWラマン)とTimegateラマン分光で比較した例です。
従来のラマン分光では、試料から発生する蛍光によりベースラインが大きく上昇、またラマンピークの識別が困難です。
一方、Timegateラマン分光では蛍光成分を時間的に除去することにより、鉱物由来のスポジュメン等ラマンピークを明瞭に観測することができます。
■ 生体試料の測定例

生体関連試料のラマンスペクトルを、従来ラマン分光とTimegateラマン分光で比較した例です。
従来のラマン分光では、生体試料に含まれる蛍光成分の影響により、スペクトルのベースラインが大きく上昇し、ラマンピークの識別が困難になる場合があります。
特に、生体試料や発酵液などでは、蛍光バックグラウンドが強く、化学成分由来のラマン信号が埋もれてしまうことが少なくありません。
一方、Timegateラマン分光では、時間ゲート検出を利用することで蛍光成分を効果的に抑制し、試料中の分子由来のラマンピークをより明瞭に観測することができます。
図に示すようにグルコース、脂質(lipid)、タンパク質(protein)などの分子に対応するスペクトルの特長をはっきり確認することができます。
■ 微結晶セルロースの測定例

微結晶セルロース(Microcrystalline cellulose)は、医薬品製剤において錠剤の賦形剤として広く使用される材料です。
蛍光の影響により従来のラマン分光ではスペクトルの取得が困難になる場合があります。
このスペクトルでは、微結晶セルロース試料を例として、従来ラマン分光とTime-gatedラマン分光の違いを示します。
CW(連続波)レーザーを用いた従来のラマン分光では、試料由来の蛍光成分がスペクトルのベースラインを大きく押し上げています。一方、Time-gatedラマン分光では、時間ゲート検出を用いることで蛍光成分を抑制し、セルロース由来のラマンピークを明瞭に観測することができます。

Time-gatedラマン分光において設定する検出遅延時間の範囲によって、ラマン散乱と蛍光の寄与がどのように変化するかを示した例です。
Time-gatedラマン分光では、励起パルスに対する検出タイミング(遅延時間)を調整することで、ラマン散乱と蛍光を時間的に分離することが可能です。
黒線は、遅延時間範囲を4.6〜5.2ナノ秒に設定した場合のスペクトルです。蛍光成分が抑えられ、ラマン散乱が支配的なスペクトルが得られています。
一方、赤線は遅延時間範囲を4.6〜5.7ナノ秒に設定した場合のスペクトルです。
“0.5ナノ秒”の差ですが、遅れて発生する蛍光成分も検出されるため、ベースラインが大きく上昇し、蛍光が支配的なスペクトルとなっています。
このように、Time-gatedラマン分光では検出遅延時間の設定により、ラマン信号を選択的に取得することが可能になります。
検出遅延時間の違いによるラマンスペクトルの変化
Time-gated ラマン分光が有効な試料例

Timegateラマン分光は、蛍光干渉の問題を克服できる可能性があるため、さまざまな研究分野や材料分析で応用されてきています。
主な応用例としては以下のような分野が挙げられます。
- 蛍光を発する有機材料
- 医薬・バイオ関連材料
- 鉱物試料
- ポリマー材料
これらの分野では、従来のラマン分光では取得が難しかったスペクトル情報を取得できる可能性があります。
Timegateラマン分光による受託分析
PhotonTraceでは、Timegateラマン分光を用いた受託分析サービスを提供しています。
蛍光の影響により従来のラマン分光では測定が困難であった試料に対しても、Timegateラマン分光技術を用いた分析によりスペクトル取得を試みることが可能です。
材料研究や化学分析など、さまざまな研究用途に対応しています。

Timegateラマン分光による分析についてのご相談や、測定可能性に関するお問い合わせなど、お気軽にご連絡ください。
試料の種類や測定条件についての事前相談も可能です。

